介護業界、正直あまり良いイメージがない。責任が重い、収入が低い、労働時間が長い、介護される側がわがまま。ニュースとして世に出てくるのは、良い話よりも悪い話の方が必然的に多くなるのは理解しているのだが、労働環境としては良いイメージがないのは私だけだろうか。
そんな中で出会ったのが、株式会社Sakula(以下「Sakula」)の代表取締役である干泥(ひどろ)さん。干泥さんとは、2023年夏前くらいにSakulaが定期的に行なっている外国人の方達との交流会に参加させていただいた時に初めてお会いした。とても物腰が柔らかく人との接し方が丁寧。でも何かパッションが凄い!外国人介護士の方達へのリスペクトが半端ない!何なのこの人。
今回は、介護業界で物静かだが熱く生きている干泥さんの正体を探る。何が彼を突き動かしているのだろう。
【学びポイント】 ・単に人手がないから雇うのではなく、お互いにリスペクトできる関係が築けるか。 ・採用時の人の見極めが大事。自信を持って紹介できるのは20%以下。 ・雇用する海外の方は勿論だが、受け入れ体制が整っているのかが重要。 ・それぞれの国、宗教などをしっかりと把握し理解してあげること。
目次
1.Sakulaとはどのような会社?
2.なぜ介護業界をお仕事に?
3.外国人介護士の紹介業で起業した理由は?
4.外国人の方を雇用する際に気をつけること
5.これからの目標
6.まとめ
1.Sakulaとはどのような会社?
ワクワク:年末のお忙しい時にありがとうございます!まずはSakulaについて教えてください。何か外国人介護士に関連したお仕事でしたよね?派遣でしたっけ?
干泥さん:Sakulaは2022年の1月に設立した会社で、現在私1人で活動しています。業務内容は派遣ではなく、外国人介護士に特化した人材紹介になります。
ワクワク:人材紹介ということは売上的には紹介したその時に発生する紹介料だけなのでしょうか?
干泥さん:外国人介護士の方が日本で働くには就労資格(ビザ)が必要になります。介護のビザには、特定技能「介護」、在留資格「介護」、特定活動「EPA介護福祉候補者」、技能実習「介護」の4種類があり、それによって出来る範囲が変わってきます。在留資格「介護」など取得が難しい資格の場合には定期報告の義務などもないので紹介だけで終わってしまいます。特定技能「介護」の場合ですと介護施設への紹介時にいただく費用にプラスして、3ヶ月に一度定期報告を行うように出入国管理及び難民認定法に義務として定められているので、そちらの作業を行ったり、紹介した人に対しての様々なサポート行うことで毎月の費用を介護施設様などからいただいております。Sakulaでは約30人の外国人介護士の方をご紹介しているので、その方達の定期報告などのサポートなどを行っている形になります。
2.なぜ介護業界をお仕事に?
ワクワク:そもそもなぜ介護業界をお仕事に選ばれたのでしょうか?身近に介護が必要な人がいて必要性を感じたとかそういう理由ですか?
干泥さん:実は介護とかには全く興味がなかったんです。学校を卒業してから最初に就職したのは大手の家電販売店で、店頭での販売員をしていました。その後、退職してフリーターをやりながら音楽活動をしていたのですが、その時金髪だったんですw

ワクワク:き、金髪! なんか今の雰囲気からは全くイメージ出来ませんねw
干泥さん:ですよねw それで音楽で食べていくのも大変だったので働こうと思ったのですが、金髪だと中々採用されないじゃないですか。そんな時に事務の募集があり、事務なら裏方なので金髪でも大丈夫かなと思い応募したところ採用していただいた感じです。その会社がたまたま介護士の人材派遣を行っている会社で、介護業界に入っていくわけです。
ワクワク:使命感とか格好良い理由があるわけではなく、たまたま髪が金髪だったからというのが本当の理由なんですねw
3.外国人介護士の紹介業で起業した理由は?
ワクワク:介護の人材派遣会社で事務として働いていたのに何故外国人介護士の紹介に特化した会社を設立したのでしょうか?
干泥さん:実はその会社には事務として入ったのですが、結局事務はやらなかったんです。

ワクワク:え?事務やらなかったんですか?
干泥さん:入ってみたら業務内容はテレアポを行う営業だったんですw
ワクワク:うわ、最悪だw あるあるのパターンですねw
干泥さん:でもそんなに嫌ではなかったんです。量販店では店頭に立って接客をしていたので、金髪の見てくれなんですが、喋り方とかはちゃんとしてたんでw それでその会社に9年半いました。最初はアルバイトとして1年やって、結局音楽では食べていけなくて、その後正社員の営業として雇っていただき8年半いました。髪の色は黒くしなくてはいけなかったのですが、それによって外回りも行うようになりました。介護の知識もちょっとずつですが周りのスタッフの人や介護士の方たちへのカウンセリングなどで深まってきた感じです。
ワクワク:でもまだ外国人介護士の話は出てきませんね。
干泥さん:はい。その後、法律が改正されて外国人の方も日本でお仕事ができるようになったのですが、そのタイミングで会社が外国人の方を支援しようという流れになり留学生の奨学金を会社が支援して、資格を取ったらそのまま介護士の派遣として働いていただくという業務を始めたんです。この時に初めて外国人介護士の人との関わりが出来ました。
ワクワク:それが何故独立してという話になったのでしょう?
干泥さん:外国人介護士の方と関わる前は日本人介護士の派遣の方達をずっと支援していました。勿論良い人も沢山いるのですが、現場での課題や問題に対して、どうやったら上手くいくのかという議論が少なく、生産性がある話が乏しいことが多かったんですよね。
ワクワク:まあ、どんな企業や組織でも多かれ少なかれその傾向はありますよね。
干泥さん:そんな中で外国人介護士の方達と関わり始め、衝撃を受けたんです。ものすごく明るくポジティブで、介護の仕事が本当に好きで勉強したいという人たちだったんですよ。人種的にはフィリピンとかインドネシアとか東南アジアの人が多く、彼らの国では目上の人や年配の人を大事にする文化というのがあって、日本のように介護施設などが多くあるわけではないので、親や兄弟、親族などの介護も自分達でするというのが普通なんです。日本よりも介護というのが身近で普通のことなんですね。でも、その会社が買収で他の会社の傘下に入り、外国人向けの業務を辞めようとなってしまいました。元々自分で会社をやりたいとういう想いがあったので、良いタイミングだと思い会社を設立しました。
ワクワク:なるほど。でもそのタイミングで転職したりとか、他の業種に変わるという選択肢もありますよね?
干泥さん:出会った外国人介護士の人たちから自分的にも凄くエネルギーをもらうというかモチベーション的に得るものがあったので他業種にとは考えなかったですね。彼らなら日本の介護業界をもっと良くできると思いましたし、外国人介護士の方への支援を一方的にしているのではなく、自分自身も彼らから色々なものを貰っているんです。



ワクワク:なんか熱いですね! ただ実際問題、ちょっと先入観があるかもしれませんが、海外の方って人としては良い人だったとしても、文化も違えば習慣も違うというイメージがあるので、介護を受ける側からすると心配なんじゃないんですかね?意思の疎通がちゃんと出来るかどうかとか、日本人的な気持ちを汲み取って行動するとかできるのだろうかとか。
干泥さん:正直これは人間性ですね。外国人だから出来るできないではなくて、日本人も同じなんです。外国人でも日本人でも出来る人もいれば出来ない人もいます。
ワクワク:まあ確かに海外の方だから特別ってことはないですよね、同じ人間なんだし。どうしても海外の方とかはニュースとか話題として取り上げられやすい傾向があるので、「外国人=こんな人たち」という決めつけた見方になってしまうのは注意しないといけないですね。日本人だって勤勉というイメージはあるけど、そうじゃない人たちも沢山いますからねw
4.外国人の方を雇用する際に気をつけること
ワクワク:今は紹介業ということで沢山の外国人の人が干泥さんに声をかけてくると思うのですが、全員をなんとかしてあげてるのか、それとも一部だけなのかというところはどうなのでしょうか?
干泥さん:全ての人を支援してはあげたいのですが、中にはお断りするケースも少なからずあるのが事実です。年間で100人くらいとはお話ししているのですが、ご紹介できるのは1割とか2割くらいですね。
ワクワク:やはりちゃんとした人を紹介しないと会社の信用にも関わるじゃないですか。どの国でもそうだと思いますが、中には変な人もいるんですよね?人柄が良くて明るいイメージがあるんですけど、適当感があるじゃないですかw
干泥さん:いますね〜w
ワクワク:どういう風に良い人を見極めてるんですか?
干泥さん:まず外国人だから日本人だからというのは関係なしで、下記のようないくつかのポイントがあります。やり取りをする中での判断にはなってしまうんですけどね。
- 連絡が来てやり取りを行うときのレスポンスの速さ。
- やり取りの文章の丁寧さ。(外国の方は日本語が少し弱いとかありますけど)
- 自分のやりたい事とか主張するだけではなく、協調性がありそうかどうか。
ワクワク:やり取りって1週間とかベタで行わないじゃないですか。どれくらいで判断されるんですか?
干泥さん:殆ど2、3回のコミュニケーションで判断します。最初はメッセージでやり取りを行ってから、お力になれそうな方であればオンラインでお話をさせていただきます。
ワクワク:判断された後に実際に紹介するじゃないですか。紹介した後の干泥さん側のサポートとかケアの負荷とかは高いんですか?色々相談に乗ったりとか、問題起こしたりとかしそうですが。
干泥さん:よく外国人の紹介だったり派遣だったりする企業では負荷が結構高いって聞くんですけど、私の方では正直そんなに高くないですね。そもそも問題を起こさないような人を見極めて紹介しているので。
ワクワク:なるほど。見極め重要ですね。たった数回話しただけで見極めができているんですね。製造業や町工場とかでも人が足りなくて外国人の方を雇うことって結構あるのですが、面白いことにうまく回ってどんどん採用を増やしていきたいというところと、失敗してもう二度と採用しないというところと完全に二極化してるんですよね。それって何が原因なんだろうと。採用する人の問題なのか、採用する側の問題なのか、どうなんでしょうかね。
干泥さん:まあ確かに紹介する外国人側に問題があるケースも時にはあるんですが、私の場合まずは紹介する企業の見極めから入るんです。ここの会社は外国人を採用した際に企業としてしっかりと支援をしようとしているのかとか。
ワクワク:両方見てるんだ!
干泥さん:そうです、そうです。企業がちゃんと受け入れられる企業でなければ、結局私がいくら良い人を紹介したとしてもダメなんで。受け入れる企業側にとっても良いことないですし、紹介する外国人の方にも変なとこ紹介してごめんなさいになってしまいますから。企業側の担当者が自分と同じ目線で話せるかどうか。向こうが上から目線とかでくるのであれば、私はビジネスパートナーとしては選ばないようにしています。お互いにデメリットしかないので。外国人の方も受け入れる企業もある一定のラインを設けないとミスマッチがどうしても起きてしまうと思います。
ワクワク:結構上から目線でくる会社とか多そうですよね。とりあえず人が足りないから誰でもいいからなんとかしたい的な。
干泥さん:多いですねw



ワクワク:でも、そういう中でも企業としてしっかりと考えて、干泥さんと同じような目線に立って介護業界をなんとかしたい、人材不足をなんとかしたいというところは出てきてはいるんですよね?
干泥さん:徐々に出てきてはいますね。そもそもこの先を20年見た時に、介護業界って70万人足りなくなるって数字でわかっているんですね。年々足りなくなっていくんです。じゃあ足りなくなるとわかっていて何をしますか?じゃないですか。そこの現実をしっかりと見ている企業さんは、じゃあAIやテクノロジーを使って業務を効率化しようとか、そもそも人がいないので国内だけでなく海外からの人材を採用して彼らに活躍できる環境を作っておこうとか考えて動き始めています。実際私がお付き合いしているところはそのような企業さんですね。
ワクワク:外国人介護士の方とのコミュニケーションは英語ですか?日本語ですか?
干泥さん:日本語ですね。
ワクワク:日本語がカタコトでコミュニケーションが難しかったりすると採用の段階でお断りしてるんですね。
干泥さん:確かに日本語能力での判断はあるのですが、日本語レベルがそこまで高くない方でも、日本語以外の能力の高い方や、お人柄が素晴らしいと思った方は是非お力になりたいので、支援させていただいてます。
ワクワク:東南アジアの方達が多いと聞きましたが、干泥さんは例えば彼らの習慣とか考え方とかは勉強されるんですか?
干泥さん:習慣というか大きく違うのは宗教ですね。そこまで詳しくはないですが、ある程度は理解して対応しないといけないですね。

ワクワク:じゃあ受け入れる海外の方の国に合わせて、そういうのを気にしながら対応しているんですね。
干泥さん:そうです。海外の人たちは自分たちが信仰している宗教に対して否定されるが怖いんですよね。例えばイスラムの人とかはお祈りの時間があるのですが、日本に来たらそれが拒まれるんじゃないかとか不安に思っていたります。
ワクワク:確かにイスラム教の人って詳しくは知らないですけど、定期的な時間にお祈りとかしますよね。介護施設とかでもやっているということですか?
干泥さん:やってますね。私は日本人だけれども皆さんの味方だよという形で、宗教のことも理解して彼らが伝えてほしいこと、不安に思っていることを代わりに施設の方と調整します。逆に施設側が不安に思っている事とか気になることを彼らと調整もします。そこでそれぞれとの信頼関係が生まれる感じですね。まずは彼らそれぞれのことをしっかりと理解してあげることが大事です。
ワクワク:紹介をやっていく中で嬉しかった事とか成功した!ということはありますか?
干泥さん:外国人介護士の方が私の対応が良かったので新しい人を紹介してくれたりとかですかね。あとは去年ある介護施設なんですけど初めて外国人の方を採用したんです。やはり最初なんで日本語大丈夫?とか日本での生活大丈夫?みたいにやはり不安の方が当然大きかったんです。でも蓋を開けてみれば紹介した人がめちゃめちゃ評価高くすごく喜んで下さって、こういう人材ならどんどん欲しいといってくれた時は嬉しかったですね。
ワクワク:それじゃ逆に失敗した!ということはありますか?
干泥さん:失敗したこともありますね〜。どうしても会社始めた時ってお金が必要じゃないですか。さっきの話じゃないですけど、見極めを厳しくしないで多少目をつむらないといけないかなという場面もやはりあったんです。そうすると嫌な予感が的中するじゃないですけど、クレームになったりとか、辞めちゃったりとかありますね。なんとなく確信がなかったというか企業側も外国人の方もどうかな〜というのが薄々あったんですがやはりね、みたいな。見極めが重要という良い勉強になりました。
5.これからの目標
ワクワク:最後にこれからの目標とかどういった活動をしていきたいかとかお聞かせください。
干泥さん:今は教育事業をやっていきたいと思っていますね。すでにトライアルは初めて入るんですけど、介護の国家資格をとってもらうための支援ですね。在留資格「介護」をとることができれば家族を呼ぶことが出来るので、彼らの目標はそれなんですよね。日本に永住してちゃんと介護のお仕事をしたいと。
ワクワク:得意の先入観ですが海外の人って言い方がちょっと悪いですけど出稼ぎ的なイメージで、ある程度したら国に帰ってしまう、帰りたいと思っているイメージがあったんですが違うんですね。
干泥さん:どちらの考え方の人もいます。でも日本での生活に慣れてしまうと、安全性とか快適だったり、子供とかいると教育面とか、ずっと日本でという方が結構多いんですよね。国家資格を取れると企業側にもメリットがあって、人数が増えると国からもらえる介護報酬も増えるのでお互いにメリットがあるんですよね。ただ私の方は管理業の売上が取れなくなってしまうのでマイナスなんですけどねw
ワクワク:でも外国人介護士の方や企業側のメリットにはなるので行いたいんですね。
それではお忙しい中、長時間のインタビューにご協力いただきありがとうございました。ぶっちゃけと先入観の塊なので失礼な質問とか答えにくい質問もあったとは思いますがお答えいただき恐縮です。
6.まとめ
介護業界に限らず、年々労働人口が減っている中で、海外の人たちに頼らなくては成り立たなくなっている日本。しかしクローズアップされやすい外国人の犯罪や問題などで度々非難の対象になる。関わりが少ない人にとっては先入観が生まれる。しかし問題がある人は海外でも日本でも関係なく存在する。日本人にも遅刻が治らない、急に仕事に来なくなる、職場で問題ばかり起こす人や犯罪に手を染める人はいる。先入観を捨てて真摯に彼らと向き合い、ちゃんとした人であれば受け入れる意識を持ち、応援してあげたいと思い行動している干泥さん。とてつもなく明るく前向きでフレンドリーな海外の人と関わるとそう思ってしまうのも納得。職場の雰囲気も明るく変わるのではないか。干泥さんのノウハウや人を見る力は介護業界に限らずどの業界でも活かせると思う。でもまずは自分自身の先入観を捨てないとなと反省。
【学びポイント】 ・単に人手がないから雇うのではなく、お互いにリスペクトできる関係が築けるか。 ・採用時の人の見極めが大事。自信を持って紹介できるのは20%以下。 ・雇用する海外の方は勿論だが、受け入れ体制が整っているのかが重要。 ・それぞれの国、宗教などをしっかりと把握し理解してあげること。

株式会社Sakula
干泥 信隆(Nobutaka Hidoro)
https://www.skla.jp/
https://www.youtube.com/channel/UCd0AiS_oPZ9mxgbhWPhJHmQ
多様性のこの時代だからこそ、情熱やホスピタリティの持った海外の方の「日本で介護をしたい」という気持ちを応援したい。

合同会社ワクワク人
衛藤 誓(Chikai Eto)
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日本にはまだまだ表に出ていない素晴らしい企業、人、技術、活動が沢山眠っているんだなと日々感じています。
