2023年の4月からものづくり系のX(当時はTwitter)アカウントをフォローし始めた際に真っ先に目に入ってきたネジマルという言葉。なんだこれ。溶接工がクリエイティブな活動をしている。それがハタノ製作所のハタノさんだった。
製造業は年々厳しくなっていると言われている中で、「本業+新しい試み」でワクワクしながら実際に行動を起こし、さらにこれからの世代に製造業の可能性を見せるという部分で非常に興味を持ったのを思い出す。実は私が合同会社ワクワク人を設立し、この「ワクワク人」というサイトを立ち上げるきっかけになった人でもある。
今回は(自称)溶接工であり、クリエイターで「ねじのどうぶつ ネジマル」の生みの親でもあるハタノさんの正体を暴く。どのようにして彼は生まれたのか?本当に溶接工なのか?
【学びポイント】 ・何を売るかも重要だが、誰が売るか(人柄)も重要 ・考えているだけではなく勇気を出して行動することによって始めて人の輪は広がっていく ・自分を知ってもらわないと何も始まらない。そのための飛び道具が必要。 ・SNSで情報を発信することで様々な意見をもらえる
目次
1.そもそもハタノさんって何者?
2.運命を変えた「おおたオープンファクトリー」
3.ネジマル セカンドシーズン
4.まとめ
1.そもそもハタノさんって何者?
ワクワク:都内某所(京浜島)。ご無沙汰してます〜。城南工業株式会社さんの工場の中にハタノ製作所さんの作業場所があるんですね。ハタノさん怪しいからなあ、本当に溶接工の仕事をしてるのか本日は色々お聞きしたいと思います。そもそも学校が蔵前の方の学校でしたよね。

ハタノさん:東京都立蔵前工業高校という学校です。実家が大田区にある町工場で、いずれはそこで働くんだろうなということで地元から通えそうな工業高校を選びました。兄が私立校だったのでお前は都立な!的に決まってましたw ただ、加工とかよりもパソコンとかの方が好きだったので電気科に入りました。
ワクワク:工業高校だけど電気科だったんですね、機械や工業じゃないんだw 仕事間違えてないですか、溶接やってるってw
ハタノさん:そうなんですよw とりあえず自分が興味あることを勉強しようかなと。
ワクワク:卒業してからは森ビル関係のビルマネジメントの会社に入社したんですよね? 電気科を卒業したからですか?
ハタノさん:電気科を卒業すると不動産関係のメンテナンス会社に入る人が多かったんです。ビル管理の仕事が好きだからというわけではなく、担任の先生から周りの学生がそういった業界の会社に入社しているからと勧めていただきました。

ワクワク:でも元々実家が町工場で板金とか溶接とかしてたんですよね?
ハタノさん:はい、まさに今やっているような溶接オンリーの町工場でした。
ワクワク:学校を卒業していきなりは家業を継がなかったんですね。実家を継ぐ前に社会人経験を積みたいなと思って普通の会社に入って揉まれてみようみたいな。その時は実家を継ぐかどうかすらまだ決めてなかったんですか?
ハタノさん:そこまで考えてなかったというのが正解ですねw 小さい頃は絵を描くのが好きだったけど、漫画家とか画家とかだと食べていくのは厳しいかなと。で、中学生くらいにトイストーリーという映画が出てきてコンピューターグラフィックスってカッコいいなと思ったんです。だけど当時はコンピューターグラフィックスとかが出来るパソコンはまだ高くて手が出ませんでしたが、勉強できるならそういう方向がいいなと考えていました。いずれは実家の家業を継ぐのかなとは漠然とは思ってましたが。だから卒業した後もすぐに実家を手伝うとか、製造業の会社に入るとかではなく決めたという感じです。家業を継げとも言われていないですし、兄もいましたので。
ワクワク:選択肢の一つとして遠い先にそれはあるけれども、卒業時点では本筋にはなってなかったということですね。
ハタノさん:もちろん溶接の仮止めとか学生の時に手伝ったりとかで経験値はありましたから、全く知らない人よりかは身近な仕事ではありました。父親の作戦だったのかもしれませんw
ワクワク:こんな感じの仕事なんだなということは分かってはいたんですね。それでビルマネジメントの会社で5年くらい働いてから、町工場に入っているじゃないですか。共栄溶接さんかな。
ハタノさん:それが実家ですw 当時の勤め先で東北へ異動の話があり、なかなか帰ってこれないと聞いていたので転職を決断しました。
ワクワク:でもビルマネジメントのスキルは5年分は上がってるじゃないですか。同じような業種の別会社に移らずになぜ実家に戻ったんですか?ものづくりをやりたい!という想いがあったということですか?
ハタノさん:いや全然そんなことないですw 5年やってはいたけれども、そこで何か揺るぎないスキルが身についたとか、目標が出来たとかではなかったんです。ただ、同じような工業高校を卒業した仲間がいて、私は大学には行ってなかったので、そこが大学のキャンパスライフみたいな感じだったのは良かったですねw
ワクワク:なんか今までのハタノさんを見ていると、小学生時代からものづくりが好きで溶接工目指してましたという人かなと思ってましたがリアルはやはり違うんですねw モチベーション高いから勘違いしてましたw
ハタノさん:そういうカッコいいストーリーだと美しいんですけどねw
ワクワク:それで実家の共栄溶接さんに入って本格的に溶接の技術を学び始めたんですね。で実家で10年間働いて独立と。親の期待を裏切る行為w なぜ継がないで独立したんですか?溶接という全く同じ業種なのに何かあったんですか?w

ハタノさん:そこは…ありました、7年くらい働いた時に色々とw このままここで働いていても何も変わらないし、代替わりするのを待って動いていたのでは遅いなと。それでどうせならまた違う分野で働いて見たいとも思ったんです。
ワクワク:えw 実家で働いてる間にまだやりたい事が定まってなかったんですかw てっきり溶接工になりたいのかとw
ハタノさん:そこで今度は自分が一番好きだったゲームの業界に携わりたいなと思いました。お客様への納品で工場から外出するチャンスがあった時に「自分の運命を変えてやる!」と思ってゲーム会社に電話したんですね。ところが募集はしていなかったw 当たり前なんですが、そんな都合よくはいかないですよねw 電話を切ったあと、自分の無力さを感じて自然と涙が溢れていました。 でもやっぱり勤め先の工場から離れたいと考えて、ビルマネジメント時代の先輩で起業経験のある方に相談した際「培った技術を捨てるのは勿体無い、10年働いたら周りの見方が変わる」とアドバイスされ、その言葉を信じて丸10年溶接工場で働きました。
ワクワク:だからちょうど10年で独立なのか〜w 心を殺しながら働いている際にどんな職種で起業しようとか色々考えたんですか?
ハタノさん:もし起業するなら、自分の強みや価値はなんだろうと考えたとき、身についた技術の存在が大きかったので溶接が軸になるだろうと考えました。
ワクワク:ゲーム業界ではないんかーいw
2.運命を変えた「おおたオープンファクトリー」
ハタノさん:w 大田観光協会と地域の工業団体が主催する「おおたオープンファクトリー」というイベントに参加したのが私の中で大きなきっかけになりました。デザイナーさんやアーティストの方が色々参加されていて、そこでお知り合いになった方から作品を飾るためのフレームを作れませんかと相談をしていただいたんです。実際に製作したらすごく喜んでいただいて、あれ?これって他の町工場さんじゃ出来ない事なのかなと気付いたんです。
ワクワク:あ、ちょっとネジマルの匂いがしてきたw
ハタノさん:確かに町工場とかって一般の人が相談するにはハードルが高いじゃないですか。気軽に相談できない雰囲気とかありますよね。

ワクワク:まあちょっと一見さんお断り的な雰囲気を漂わせてますよねw ホームページも無愛想だし、工場の外観からはシャッター閉まってて何してるか、どんな人が働いてるのかも全くわからないですからね。実際一般の人からのお仕事を断ってたりとかもしそうですね。
ハタノさん:今まで関わることがなかったデザイナーさんやアーティストの方々と仲良くさせていただくことで、ビジネスの新しい視点や需要が加わるのかなと思って積極的に交流を始めたんです。それが他の工場には出来ないけど自分には出来ることなのかなと思って。今までやってきた溶接を主軸にそういう活動をすれば、製作事例などが発信できて露出も増えて相乗効果になるのかなと。
ワクワク:そもそも溶接のお仕事が少なくてなんか出来ないかな〜と思ってネジマルとかクリエイターさん寄りの仕事を始めたのかと思ってましたが、実は最初からそれを目指していたんですか?
ハタノさん:もちろんもちろん。新しく事業をはじめても地域の工場様はすでに繋がりのある溶接工場に依頼すると思います。なので私がやるならそちらの方向性かなとは思っていました。
ワクワク:練習で仕事の合間に作っていたネジマルをたまたま販売したら売れたから始めたというのではないんですね?

ハタノさん:ネジマルとクリエイターさん向けのお仕事は別の話です。製造業のお仕事をするなかで新しい何かに取り組まないと業界全体で衰退していく気がして、おおたオープンファクトリーで気付いたようにクリエイターさん向けのお仕事を取り入れることを考えました。ただ、そう簡単にはいかず、安定したお仕事は少なかったり特急品の製作や大きな製作物のご相談があったりと売り上げも不安定です。そんな中で少しでも売り上げのベースアップにならないかと思いネジマル(当時は「てっけん」と呼んでいました)をオンラインで販売したら皆様から好評だったという感じです。
ワクワク:なるほど〜。メインのビジネスである「通常の溶接」+「クリエイター向けの溶接」にネジマルという販促ツールというか認知度を上げるための飛び道具であるネジマルが加わったという流れですね。新規ビジネスの最初の段階は認知度自体がないですから本業に仕事を引き込むためにもまずは存在を知ってもらうというのは超重要ですね!
ハタノさん:今お仕事をいただいているクリエイターさんたちは、今までどこかに頼んでいる方達を新しく取り込むというよりかは、そもそも金属加工をお願いする先を知らなかった人たちがほとんどです。色々なところに顔を出して、「お、ハタノさんって面白いね」とか紹介していただく感じで全く新しい金属加工を依頼してくださるお客様が増えているんです。そういう方から単にお仕事をいただくというよりかは、一緒に悩み考えながらお仕事をしているという感じで、自分にとってはとても嬉しいことですね。

ワクワク:金属加工に縁がなかった全く新しい人たちを開拓しているのは凄いですね!単なる受発注の関係ではなく、一緒になって考えてくれるハタノさんが頼もしいし、嬉しいんでしょうね。溶接の作業自体はできる会社は沢山あるけれども、ハタノさんとやりたいという差別化やブランディングになっている気がします。
ハタノさん:あまり個人を尊重してもらえるような人生ではなかったので「この人だから一緒にお仕事をしたい」と言ってもらえるのは非常に嬉しいし、今はそのために生きているという感じです。
3.ネジマル セカンドシーズン
ワクワク:素晴らしい!w ただ、最近ちょっと気になっているのは、ネジマルって現役の溶接工が展開するプロダクト(フィギュア)で今時点では話題になっている。でも単なるフィギュアの販売だといずれ行き詰まるじゃないですか。その先ってどうなるんだろう?と。ネジマル セカンドシーズンみたいなw 今まで色々話していると意外とっていう言い方は失礼になるけど、色々先の展開を考えているじゃないですかw
このまま売って売って売りまくって、日本で売れなくなったら世界で売りますみたいな戦略も可能性としてはあるじゃないですか。
普通にあるネジから作られたクリエイティブプロダクツ止まりなのか、実はその先の展開やプラスアルファの要素も実はあったりするのかよければ教えてください!w
ハタノさん:漠然としか考えていないのですが、ポケットモンスターの「メディアミックス戦略」という取り組みはとても参考にしています。最初はゲームから始まったものが次はキャラクタービジネスとかに発展したりみたいな。多角化した発信、例えば作品と漫画とかアニメとかグッズ販売とか。 もちろん規模は全く違いますが、それを自分の小さなビジネスに当てはめたら何ができるかなということで、四コマ漫画をスキマ時間に描いてX(twitter)に投稿したり、メイキング動画を編集したり、最近だとストップモーションアニメをやって欲しいと言われますね。
ワクワク:やはりすでに着々と進め始めているんですね!さすがブラックハタノw 考えてますね〜
ハタノさん:ネジマルが最初にできたのは溶接工場で勤めていた頃なんですが、自分の人生にリンクしているんです。最初は「イヌ」から始まりましたが、徐々に仲間が増えていって現在は10種類以上になってきました。独立創業した時は一人でしたが、色々な人と出会うことによって徐々に仲間が増えてきている。

ワクワク:なるほど!ネジマルのラインナップが増えているのは今のリアルハタノの周りに応援する人が集まっているのとリンクしてるんだw 人生とw
ハタノさん:そうですそうです!勇気を出して行動をすると人が集まってきてくれる。たとえば、衛藤さんみたいに。
ワクワク:ネジマル自体は機能もない単純なクリエイティブだけど、ネジマルを見て人生変わってる人もいると思うんだよな〜自分もワクワク人という会社を作ってしまったし、溶接に興味を持った人もいるかもしれない。通常の業務だけでなくネジマルのような新たなプロダクトを作ろうと始めた人がいるかもしれない。ネジマルの足が稼働型になってチョロQみたいにピューと稼働するものを作る人が出てくるかもしれない。そう考えるとすごいことだよな〜良い意味で周りを巻き込んでる。
ハタノさん:溶接の技術を軸に、様々な取り組みで発信したりたくさんの方と関わらせていただいてます。ただし時代が求めるのであればそれは溶接でなくても良いかなと。その時に自分の個性はなんだろうと考えたら、異業種の方とも垣根なく対話する姿勢でいることではないかと思いました。 ネジマルもそのきっかけのひとつなので、面白いなと思った方に声をかけてもらえたら嬉しいです!
4.まとめ
製造業が厳しい状況という中で、本業に注力し磨きをかけていくという選択肢もあるし、ハタノさんのように本業+アルファで活路を見出していく人もいる。どちらが正解かはわからない。どちらも正解なのかもしれない。よく考えると多角化とか異業種参入して本業を支えたり、リスクヘッジしている会社は沢山ある。当たり前のことかもしれない。でもこれだけは言える、行動しなければ何も始まらない。ハタノさんは不安なこともあったと思うが、勇気を出して行動することによって、人の輪を広げていく力がある。ハタノさんを応援する人もいれば、逆にハタノさんが応援する人もいるだろう。それがハタノさんの最大の強みなんだろう。色々な人と繋がっていく中で、新しい閃きや他の人の良い部分を取り入れていく。2024年も行動し続けるハタノさんには様々な応援者が集い、それにリンクしてネジマルの新しい姿が見えてくるのは確実だろう。
【学びポイント】 ・何を売るかも重要だが、誰が売るか(人柄)も重要 ・考えているだけではなく勇気を出して行動することによって始めて人の輪は広がっていく ・自分を知ってもらわないと何も始まらない。そのための飛び道具が必要 ・SNSで情報を発信することで様々な意見をもらえる

ハタノ製作所
波田野 哲二(Tetsuji Hatano)
https://hatanoworks.com/
Xアカウント:@hatano_works
「人を繋ぐ溶接」
ものづくりの境界を越え、新たな価値を創出する

合同会社ワクワク人
衛藤 誓(Chikai Eto)
https://wakuwaku-jin.jp/
Xアカウント:@wakuwaku_jin_jp
日本にはまだまだ表に出ていない素晴らしい企業、人、技術、活動が沢山眠っているんだなと日々感じています。